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月森の聖騎士伝

 「銀~外伝3~」
 静寂なる夜に浮かぶは、白銀の。正に輝き放つ、空の彼方。今宵、月森の聖騎士と呼ばれし、箱舟から舞い降りた人類の守り主の一族。彼らは、獣と人の姿をしているが、古来より人知れず夜の闇夜に蠢く魔を狩り、時に、人を陰より見守っていたと言われる。その一人、金。長く美しい青紫の毛に赤いルビーのピアスが妖しく瞬く。美しいブロンドの金髪を夜露になびかせ、深い澄んだゴールドの瞳が見据える先には、宙夜に輝く星空。禊である。彼は、一矢纏わぬ姿で、水が少し冷たいと思いながら思索に耽っていた。考え事をする度に、長い睫が上下する。あっと声がでた。暗い水の中に沈んで、陶磁器の様に白く透き通るかの如く、滑らかな少年の肌を這う物体がいた。

 「ルーン、か」
 「やだなぁ、金。オイラを置いてけぼりにするんだから」
 「禊の邪魔は、やめ…て」
 「なんだい、これくらいで心を乱して。ま、そこがいいんだけど」
 「ルーン」
 「どうしたの急にしんみりして?」
 「…月がキレイ」
 「その左手。オイラの紋章と模様が違うような気がするなぁ~」
 「ねえ、お願いがあるんだけど。いい?」
 「あ、ああ」
 「ルーン、銀を頼む。私は後継者を辞退する」
戒めのルーン(文字)を解かれ、真の姿を現した存在は、目の前の赤子の頃から知っていた一人の人間を己という空間に呑み込もうとしていた。聖騎士が受け継いでいた魔剣は、その真の名を封印されぬ限り、秩序を侵す混沌なる存在に過ぎぬ故。
 「勘違いするな。私は、ルーンのことは好きだし、ルーンもそうだと嬉しい。だが、お前の力を必要とするであろう、銀のことを、お前は知らぬ。私の弟をお前に任せたのは、私がお前を信頼しているからだ。お願い、私の目を見て」
 「金、オイラは、ずっと一緒に居たかったんだよ」
 「…うん。私もだよ。ごめんね、勝手に一人で決めて」
 「ずるいよ、肝心なことをオイラに言わないなんて」
 「これを見て。うっ」
 「危ない、ナイフで手を切ったら痛いよ。ほら、血が流れて…」
 「聖騎士は、かって、自らの血で魔剣を創り出せたという」
 「ま、まさか…」
 「それが、ようやく発現したんだ。でもね、ルーンみたいに何代も掛けて封印を施されているわけじゃないから、扱い辛いんだ。まだ赤ちゃんみたいなものだから、言葉も喋れないしね」
 「どうして、金。オイラじゃダメなの?」
 「いや、ルーンは最高の相棒さ。でも、この左手は、ルーンに対しても、貪欲な魔への食欲を抑えられずに、涎を垂らして見つめてるんだ。でも、ルーンは、私の大切な友達…だから」
 「分かったよ。もう決めたんだろ。けれど、今夜は離れないぞ」
 「大丈夫。一晩中、眠らないようにしてれば…ね」
 「まあ、最後の夜くらい、好きにさせてくれるって言うなら」
暮れる月夜が蔭る雲に隠れて…。


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